ぽっちゃりピンサロ嬢に手を出す風俗店員
ぽっちゃりコンセプトのピンサロに勤めていたあたしには、彼氏がいた。それは、その当時に見た求人サイトからの応募で、今の所属のピンサロへの求人面接を担当してくれた年下の面接官、純ちゃんだ。ゾンビのようにコミュニケーション能力が全く欠如していたあたしを、よくもまあ採用したものだと思う。うちのピンサロは常に求人を出しているので、あたしを採用しなくても良かったと思うのだが…
あたしの着る服は、ぽっちゃり体型を気にして黒のゆったりしたカーディガンばかり。そんな布一枚だけでは隠し切れないほど肉塊のデブであったあたしを、純ちゃんはなぜ採用したのだろうか。入店後、しばらくして慣れてきたあたしは純ちゃんにそう聞いたのだった。
彼は「かわいいと思って」と、しれっと答えるのだった。彼女を作るためにあれだけの広告費を払って求人を掲載してるのかもしれない。純ちゃん流の、上辺だけの逃げ口上だったと今はわかるのだけれども、ゾンビのような精神状態であったあたしを、人並みにピンサロ店の風俗嬢ランクの中堅どころまで育て、仕事や生きていくことが楽しくてたまらない、踊るような日々に導いてくれたピンサロの面接官に言われて、あたしは一瞬で恋に落ちたのだった。あたしにとって求人応募をしたところから運命が始まっていたのかもしれない。
お金・給料も風俗店の職場もピンサロ嬢の同僚も、ありがとうと感謝してくれる数人のなじみのお客さんをも手に入れていたあたしは、当時何でも手に入れられるような無双状態だったのかもしれない。あたしは純ちゃんを押し倒した。巨体に覆いかぶされた痩せ型の男にとっては、恐怖しかない経験だったのかもしれない。行為は繰り返された。純ちゃんは特に逃げるようなそぶりも見せず、あたしにされるがままにしていた。数回の行為の後、純ちゃんはあたしに言ったのだ。「俺たち付き合おうか」と。そうして、あたしと純ちゃんは、ピンサロの店員と風俗嬢という関係に加えて、恋人同士という関係にもなったのだ。
当たり前なのかもしれないが、風俗店員と風俗嬢の恋愛関係は禁止である。それはデブもぽっちゃりも同様です。求人サイトを見ている女の子のベテランは、もちろん知っているとは思うが。いくつかの風俗店の待機室には「店内恋愛禁止」などの張り紙があるという。風俗店員とその店の風俗嬢が付き合ったとしたらデメリットが多いだろうということは、少ない社会経験のコミュニケーション不全症候群のあたしにも理解できた。なぜかといえば、どうしたって彼女は彼氏に特別扱いを望むのが女という生き物だ。たとえ店長と風俗嬢という関係であっても、自分を特別扱いしてもらえない女は不機嫌になる。すると、同僚のぽっちゃり風俗嬢たちも贔屓される彼女にひがみ感情を持つようになり、店内の雰囲気は悪くなること請け合いだ。
店長サイドからしても、風俗嬢たちの統率を取ることが困難になり、上り調子とはとても言えない風俗業界の中の切磋琢磨の中で、統率の取れない有象無象の集まりの風俗店は没落していくことだろう。どんなに求人広告を繰り返し掲載しても、風俗嬢は悪い雰囲気の店には定着しない。
あたしも、漠然と同僚のぽっちゃりやデブ女たちに純ちゃんと付き合っていることを言ってはいけないのだろうなと考えていたのだが、数日後、さも当然というように「美津子は純ちゃんと付き合っているから」と会話の文中に衝撃の文字列を挿入してきたのだった。
驚いているあたしの気持ちを察したのか、同僚のデブ女は言ったのだった。「純ちゃんがこの間言っていたよ、美津子と付き合うからよろしく、って」と。同僚の風俗嬢たちも、あたしと純ちゃんの恋愛には興味がないようで、それ以上に風俗店内で詮索されることはなかった。あたしも、ゾンビ状態から人間まで導いてくれた純ちゃんの立場を悪くはしたくなかったから、特に何のコメントもすることはなかったのだから、ぽっちゃりピンサロの中では純ちゃんとあたしが付き合っているという事実こそ共有されたが、それによって人間関係が特別に変化したような雰囲気はなかった。あたしや純ちゃんがいない場所で彼女たちがどのようなぽっちゃりトークを繰り広げていたかを推測する手段をあたしは持ちえないが、おそらくあたしたちの恋愛に彼女たちが興味もないのが本音のところだろう。風俗店内の恋愛が禁止なのは当然だ。ただ、不思議とあたしたちの付き合いは自然に進行して行ったのだ。こんな展開は求人を見ているときには想像がまるで出来なかった…