風俗嬢が稼げるのは嘘か本当か?
ぽっちゃり求人サイト経由で入店した、あたしが務めているピンサロは、店内恋愛もアリの牧歌的な雰囲気の風俗店です。普通は、風俗やキャバクラのような仕事場では恋愛はご法度のはずなのです…それが良かったのか悪かったのかは、過去に戻って別の人生を選択することができないあたしには考えるだけ無駄な時間にしかならない。
ちまちまと手芸作品を作ってなんとか生活していたあたしは、人と付き合うことなく稼げる仕事を探していた。最初は風俗なんて考えもしなかったけれど、あちこちのホームページには「風俗は稼げる」「初心者でも風俗は大丈夫」という情報は乗っていたのだ。なんだか疑わしく、バナーをクリックしてぽっちゃりのあたしでもOKであろう風俗店を探すために求人サイトを検索したのだった。
実際はそんなこともないのだろうとは思いつつも背に腹は代えられずあちこちの風俗店の面接に出向いて行ったのだった。ぽっちゃりのあたしには風俗店が稼げるか稼げないかはわからなかった。なぜかと言えば、求人面接を受けても受けても、全く採用されなかったからだ。実際に働いてお給料を貰えていないのだから、稼げるか否かの判断はつきようがない。
求人広告に「稼げる」以外のメッセージを
コミュニケーション不全症候群で風俗未経験のデブでぽっちゃりなあたしを即決で採用してくれたのが、ぽっちゃりピンサロのスタッフの純ちゃんだった。純ちゃんのピンサロに限らず、道端に置いてあった風俗求人フリーペーパーを手に入れては、上からかたっぱしに電話をしていたあたしに、風俗店のある場所とか時給額とかは全く関係がなかった。何度も求人面接で落とされるうちに、風俗求人フリーペーパーに掲載されている電話番号にただ電話をして、言われる場所に言って面接で落とされるという毎日を繰り返すだけだったのだから、その風俗求人フリーペーパーの求人広告にどんな文言が書いていようが、どうせ「おまえはいらない」と不採用にされるあたしには関係ないのだから。
採用されたときは動転して、面接官である純ちゃんの前で号泣してしまったのだけれども、はじめての接客を終えて自宅に戻って、あたしが採用されたぽっちゃり風俗店の求人広告をよくよく見たら、そこには純ちゃんが考えたらしいメッセージが書いてあったのだ。詳しく書くと店を特定されてしまうので避けるけれども、「稼げる」とか待遇の事ではなく、「ぽっちゃり歓迎」とか容姿や外見の事でもないメッセージが書かれていたのだ。
風俗店は稼げることはもちろんだけれども、性欲というもっとも基本的な本能に従事するお仕事だ。性欲の本質に触れることは、人間の本質に触れること。風俗嬢はそのプロでもあり、風俗嬢を極めることは、人間を考える哲学的な事なのだ……。ざっくり意訳すると、勉強家な純ちゃんらしい、そんなメッセージが書かれている求人広告なのだった。
「稼げる」ことは当然として、十把一絡げな求人広告に、純ちゃんみたいな経営方針とかのメッセージをもっと載せればよいと思う。風俗店を利用することは、どんなに女に見えないほど肥えたぽっちゃり人間でもできないから、求人広告とかホームページでしか風俗店の情報を知ることはできないのだから。
説教くさい求人広告の魅力
そんな説教くさい求人広告で、はたして男性客に人気の出る風俗嬢が入店を希望するのかは疑問だった。現実に、純ちゃんのぽっちゃりピンサロは求人広告をさほど出さないのに、出しても電話はあまりならない。だけれども、なぜか入店したぽっちゃりの女の子は純ちゃんのピンサロを辞めないのだ。それは、純ちゃんのキャラクターのなせる業だろう。
誰も、求人広告の文章とか見ていないのかもしれない。あたしだって、全く見ていなかった。だけれども求人広告を見ているのは、入店希望の女の子や同業者だけではなくて、すでにその店で働いている風俗嬢たちも見ているのだ。その風俗嬢たちに向けて、求人広告を介して恥ずかしいほどの直球のラブレターを書いてしまう純ちゃんは、あたしを救ってくれた恩師である風俗店員であるけれども、芯からの変わり者なのだ。どのぐらいのタマでないと、このぽっちゃりも含む風俗業界でやっていけないのかもしれないのも事実だろう。